初夏。
少し古い扇風機が低く唸りながら、部屋を左右に見渡している。
雲一つない青空が広がる昼下がり。外から運ばれる東風が時折、窓際に吊るされている硝子でできた小さな風鈴をちりんちりんと鳴らしてゆく。
お世辞にも涼しいとは言えなかった。
「久藤君、あの、」
「何?」
先生がやっと声を聞かせてくれた。
いつだったか自分の声にコンプレックスがあるとか言ってたけど、そんなことは無いと思う。
寧ろ先生の少し高い声は凄く良い声で、あわよくば誰にも聞かせたくないくらい。
「暑いんです、けど」
うん、だって先生の事抱き締めてるから。
後ろからだから表情がよく見えないのが惜しいかなぁ。でも両耳が真っ赤だから、なんとなく分かる気がする。この調子じゃ顔も真っ赤なんだろうな。
相変わらず可愛い人だ。
「先生って本当可愛いですよね」
「……久藤君、先生の話聞いてました?」
「もちろん」
先生の話す言葉一つ一つ、聞き逃すだなんて勿体ない!
……確かに暑いけど、あんまり気にならない。それは多分、こうやって扇風機のある部屋で先生と二人っきりだからだと思う。
クーラーより扇風機。暖房より炬燵。薔薇より桜。
先生にはそういった古くからある物がとても良く似合っていて、なんとなく羨ましい。
同じ領土に産まれた、日本人だからこその憧れなんだろう。
風鈴が音を立てたと同じくらいに、先生が顔を僕の方に向けた。
ほら、顔が真っ赤。本当に可愛い。
「久藤君」
「なんですか?」
先生の声で名前を呼んでもらえると、とても嬉しい。僕はすっかり上機嫌で答えた。
対する先生は、少し恥ずかしそうに目線を反らして僕に言った。
「あ、アイスが食べたくないですか?」
アイス……この暑さにはぴったりだ。
先生も僕に抱きつかれて、暑いに違いない。
そうと分かれば、と勿体無いけど先生を解放してあげる。
先生の家に行くときは大体携帯と財布と本の必要最低限の物だけ。その中から財布を持ち出してよいしょ、なんて言いながら立ち上がる。
それにあわせて先生も立った。いつの間にか団扇を手にしていてぱたぱたと扇いでる。
ちょっと狡いけど、やっぱり団扇が似合っているから、何も言わないでおこう。
それにしても先生、嬉しそう。
「だって久藤君が奢ってくれるんですよね?」
「そのつもりです」
「じゃあ早く行きましょう」
「先生、急がなくてもアイスは逃げませんよ」
さっきは暑いとか言ってたくせに、今は僕の手を取ってぐいぐい引っ張る。
意外と我が儘なところもあるんだなぁ。
やっぱり可愛い人。
今年はいつも以上に夏休みが楽しみだ。
微糖・・・・・・?
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