けほけほ。
今日何度目か分からない咳払いを先生がした。
少し眉を顰める顔が少し苦しそうだから、僕はとても不安で不安で。
軽い風邪みたいらしいので、心配しないでください
先生はそう言って笑った。
普段からよく絶望したとか言いながら首を吊る人だから、(でも死のうなんていう気はさらさらないんだよね)もうこのまま死んでしまいましょうか、って言うと思ってたけどそんなことは全然なかった。意外だ。
僕と先生は陽の傾いた図書室で、本の整理をしてた。ちゃんと元の場所に返してくれないから困るんだよなぁ。
でも、先生と二人っきりになれたことはとても嬉しい誤算だった。
風邪引いちゃってるけど。
さっきよりも苦しそうな咳をしながら本を一つ一つ場所に返していく先生を見て、なんだか僕が苦しくなった。
なんでだろう?
大丈夫ですか、なんていうのはさっき散々言っちゃったし
僕、一人でもできますよって言えば、意外と意地っ張りな先生は首を横にしか振らないし
話題が少し尽きてきた。
このままずっと黙ったままでいるとなんだか嫌な感じしかしない。
あぁ、思い出した。
「先生、あげる」
「ん?飴、ですか・・・?」
休み時間に木乃から飴を貰ったのを思い出した。小粒で透き通った赤い飴。
貰ってあとでなめようとか思っててすっかり忘れてたけど、忘れててよかった。忘れてることがいいことだなんて、滅多にないかな?
先生が、ありがとう久藤君って言いながら飴をほおばった。
でも僕のなんだか苦しいのは治まりそうになくて、寧ろどんどん大きくなっていった。
「久藤君、どうしました?」
「え、」
「なんだか苦しそうですけど・・・・・・先生の風邪がうつっちゃいました?」
とても心配そうな顔で僕の顔を見ていた。
先生の風邪ならいくらでもうつして欲しいけど、風邪じゃなさそうなんだ。
真っ赤な図書室で先生は僕の言葉を待っている。時折咳をしながら。
「先生が咳してるの見ると、苦しいんです」
「私のですか?」
僕は頷いた。
熱のせいか夕陽のせいか、いつも白い肌が紅く染まっている。
多分、両方じゃないかって思う。
そんなどうでもいいことを考えてたら、先生が僕の頭を撫でてきた。
先生の行動が少し理解できなくて思わずきょとん、としてしまった。先生はそんな僕の心情を知ってか知らずしてか、(知らないと思うけど)頭を撫でながらにこり、と笑った。
「大丈夫ですよ、久藤君。私は」
このまま死んだりしませんよ
気がついたら、苦しいものがいつのまにかなくなっていた。
ついでに先生のことを抱きしめてたらしい。普段より体温の高い先生が、僕の腕の中で少し困ったように笑っていた。
「うつっちゃいますよ?」
「先生のなら、いくらでも」
いっそこのままうつしてもらいたい、そう願って先生に深く口付けをした。
了
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