その日はたまたま他校との練習試合があり、普段の練習風景を見ることはできなかったが、それでもやはり厳しい練習を積み重ねているのだと思える試合だった。
側にいた黒子にファールの説明やもっと詳しいルール、試合に出てる人などを教えてもらいながら、ひとまず練習試合が終わるまで体育館の端でその風景を眺めていた。
「マネージャーの仕事も大変でしょ?」
そう尋ねると黒子は黄瀬を見上げた。
そして目をぱちぱちとさせてから、彼女は口を開いた。
「確かに楽ではありませんよ、ここまで人数が多いと。でも、」
僕は好きですから。
それが当たり前だと言わんばかりに黄瀬の顔をじっと眺める。どこか幸せそうな顔をしながら。
「っ、」
思わず息を飲んだ。
西陽に照らされた黒子は驚く程綺麗だったのだ。
翌朝、普段登校する時間より早目に学校へと足を運んだ。目指すは、体育館。
人の少ない学校の静かな体育館ではボールに囲まれた黒子が、丁寧にそれらを磨いていた。
「おはよう、黒子っち」
「おはようございます。意外と早いんですね」
「黒子っち程じゃないよ」
黒子がまだ磨いていないと思われるボールを手に取り、ドリブルをする。
体育館には規則正しい音が響いた。
「昨日のは……」
記憶の中からシュートの瞬間を探る。
思い出したフォームを頭の中でなぞりながらゴールへとボールを運ぶと、ボールは綺麗にネットをくぐった。
ぱちぱちと微かな拍手が聞こえた。
「黄瀬君、すごいです」
「すごいっしょ」
「昨日のキャプテンそのままでした」
「あの人、キャプテンだったんすか」
黒子の元へ戻ると、隣に腰を下ろした。
制服が汚れないように上だけジャージを羽織っていた。サイズが大きいのか、少し袖で手が隠れてしまっている。
「ところで黄瀬君、どうしたんですか?僕に何か用ですか?」
でなければこんな朝早くから学校なんて、という目をしていた。
昨日の練習試合が終わった後に、黄瀬は告白をごめん、と断り家路へとついた。
練習は辛いだろうし仕事と部活、上手に両立が出来る自信もない。しかし黄瀬にはただ一つの確信があった。
彼女となら、彼女の隣にいれば。
黒子が隣にいてくれたら、何とかなりそうな気がしたのだ。
たったそれだけだなんてどうかしているんじゃ、と思ったが、脳裏には練習試合の風景より可愛い先輩より、夕陽に照らされた黒子しか焼き付いていないのである。
もしこう言ったらどんな顔をするのか、どんな反応をするのか、そればっかりが気になって仕方がない。
ゆっくり息を吸い込み、わざと顔を近づけて言った。
「バスケ部、入ろうかと思って」
どうやらすっかり黒子に惹かれてしまったらしい
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